説明
内藤晃による序文
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)は、ヴァイマールとケーテンの宮廷に仕えたのち、1723年以降、ライプツィヒ聖トーマス教会のカントル(音楽監督)を務め、合唱団の指導や教会カンタータの演奏にあたりました。4曲の管弦楽組曲は、ケーテン時代(1717-23)に書かれ、ライプツィヒ時代に、コレギウム・ムジクムという音楽団体の指揮活動を通じ、オーケストレーションが現行の形に補筆された(フルート、トランペット、ティンパニなど)ものと考えられています。フランスのスタイルを意識して書かれたもので、冒頭に荘厳なフランス風序曲を冠し、組曲を構成する舞曲にもブーレやバディヌリなどフランス起源のものが多く登場します。 この管弦楽組曲の第3番 ニ長調 BWV1068の第2曲に登場するのが、「G線上のアリア」の通称で知られる優雅なエール(Air)です。タイトルのフランス語Airにもフランス趣味が息づいています。ドイツのヴァイオリニスト、アウグスト・ヴィルヘルミ(1845-1908)が、ヴァイオリンのG線(最も太い弦)のみで演奏できるよう移調・編曲したことで、「G線上のアリア」として広く知られる人気曲となりました。この通称のおかげで人気を獲得したとすると、バッハはヴィルヘルミに感謝 すべきかもしれません。 この曲には決定的なピアノソロ版がなく、レパートリーに入れるために私自ら編曲を手がけました。原曲の響きに忠実に編曲したものですが、弦楽器の長い音符はピアノだと減衰してしまうため、細かく打鍵し直すなどの工夫を施しています。余白のある部分には、即興的な経過音などを適宜埋め、一例として小音符で示しましたが、これに限らず自由にご自身で彩ってみてください。また、美しい主旋律が生きるように、内声とのバランスや、和音の溶け合いに留意してみてください。本書を手にされた皆さまが素敵に演奏してくださると私もとても嬉しいです。