説明
「ムジカ・ナラ」で知られる徳山美奈子の新作ピアノ曲は、子供のために書かれた七つの小品集です。それぞれに個性的な名前がつけられた楽曲は、弾く人と聴く人の双方にさまざまなイメージを喚起させます。誰もが知るフレーズを用いた「子猿をつれたおさるのかごや」「通りゃんせはコワい」や、グリッサンドを多用した「ピアノのおそうじ」など、おもちゃ箱のような曲集です。
作曲者より
第一曲「海の見える家」
弾くひとも聴くひとも、この曲でホッとしてほしい。
海の見える家で寛いでいるように。
少し曇ったり、また日が射したりする時の明るさの変化を感じてほしい。自分の心もそれを反映して、海の向こうの空に、懐かしい人たちの顔が浮かんでくるような、そんな味わいのおだやかな曲です。
第二曲「子猿をつれたおさるのかごや」
作曲者、海沼實の童謡の編曲。働く親猿の背中に乗る子猿が動いたり跳ねたりするたび、親猿はヒヤヒヤ。かごやはやがて遠ざかって行き、最後は「キャッ」と言う子猿の可愛い声が聴こえます。
第三曲「ロマンスカーのゆめ」
小田急線ロマンスカーが小田原駅に到着する時の汽笛は、普通の三和音ながらなんとも郷愁を誘う。この曲では駅の喧騒の風景がモノクロになり、ゆっくりゆっくりと、ゆめのなかに抱かれて、思い出が溶けあっていくさまを描きました。
第四曲「通りゃんせはコワイ」
このわらべうたはどこか怖くて、しかし誘われるような美しさ、妖しさがある。その両方を表現してほしい。
第五曲「ピアノのおそうじ」
皆さんがピアノのおそうじをする時、どんな音がしますか?
私の幼い頃は、母が鍵盤を掃除していた音はこんな感じでした。遊び心で弾いてください。
第六曲「ヘンなかごめ」
私が小学生の頃、バルトークの「ミクロコスモス」と出会い、それは衝撃でした!調子記号が楽典通りではない!なんて自由なんだ!しかもそれが思いつきでなく、ハンガリー民謡に根ざしている!自分も作曲したいと思い始め、以来ずっと大好きな五拍子!
この楽章は愛するベラ・バルトークへのオマージュです。
第七曲「歩くモコモコ」
敬愛する彫刻家、安藤榮作氏の個展で出会った「歩くモコモコ」をイメージして作曲、会場で初演したのがこの作品です。ここでは愛らしいモコモコを、男の子が連れ帰ったストーリーに仕立てました。
モコモコは家の中をあっちにウロウロ、こっちにウロウロ。「ボクがだっこしようとするとあっちに行ってしまう。恥ずかしがり屋のモコモコ!」と男の子は呟きます。
ジーッとモコモコを見つめたり、目が合う所は、ピアノの上に可愛い動物の置物を置いても良いし、演出も自由です。シアターピースのような、自分で歌い、演技する作品を大人も子どもも楽しんでください!
徳山 美奈子 プロフィール
東京藝術大学附属音楽高等学校を経て東京藝術大学、ベルリン芸術大学卒業。作曲を池内友次郎、矢代秋雄、尹伊桑に師事。1992年第5回福井ハープフェスティバル国際作曲コンクール優秀作曲賞受賞。1995年同コンクール審査員。同年、クラウディオ・アバド音楽監督による、1997年度ウィーン国際作曲コンクールにて第1位受賞(日本人初)。受賞作のバレエ作品「メメント・モリ」が、1996年ウィーン・モデルン音楽祭でのオーケストラ初演を経て、1997年ウィーン国立歌劇場バレエ団により振付、舞台上演される(6日間公演)。2003、2004年日本音楽コンクール作曲部門審査員。2006年第6回浜松国際ピアノコンクール日本人作品委嘱作曲家。同コンクール課題曲「ムジカ・ナラ」、2017年第29回日本ハープコンクール課題曲「オリエンタルガーデン」等が代表作。凛として優美な作風は吉野直子、福間洸太朗を始め、内外の多くの演奏家に愛され、再演を重ねている。2018年制作「序の舞〜上村松園の絵に基づく〜」は、フランスのLe Monde紙に「絹のように繊細な音楽」と評価された。一方で、NHK「みんなのうた」放映の「しんかいぎょのまち」等の親しみやすい作品も書き、近年はモノオペラ「或る若い医師の呟き」を始め、春日保人、春日信子への献呈作品を多く書いている。最新作のオラトリオ「光のみちを〜細川ガラシャの愛」(細川忠興役、春日保人)の2025年1月の初演では、實川風の指揮とピアノで大きな反響を呼んだ。