説明
美人画の巨匠である上村松園、花鳥画の第一人者である上村松篁、そして独自の花鳥画のスタイル確立した上村淳之。母から子へ、そして孫へと連なる〈上村三代〉の絵画に触発されて生まれた全6曲のピアノ作品群です。
2018年、福間洸太朗に委嘱された《序の舞》に始まり、《花がたみ》《蛍》《焰》《晨》《樹蔭》と続く全6作。上村松園の理想の女性像や能の「序破急」、花筐に寄せた悲恋、母子の情愛、パンデミックの烈しさ、夜明けの白鷹、夏の木陰の小鳥…。それぞれの絵画世界が、音楽となって表現されます。
初演から再演を重ねる中で作曲者自身が改訂を施し、さらに磨き上げられました。日本が世界に誇ることができる新たなピアノ作品のレパートリーをお届けします。
目次
序の舞 ~上村松園の絵に基づく~ 作品50
花がたみ ~上村松園の絵に基づく~ 作品55
蛍 ~上村松園の絵に基づく~ 作品56
晨 ~上村淳之の絵に基づく~ 作品57
樹蔭 ~上村松篁の絵に基づく~ 作品58
蛍 ~上村松園の絵に基づく~ 作品56
焰(ほむら)~上村松園の絵に基づく~ 作品59
序の舞 ~上村松園の絵に基づく~ 作品50
理想の女性像を静かに、しかし凜として描いた松園「序の舞」へのオマージュ。2018年、福間洸太朗の委嘱で京都コンサートホールにて初演され、欧州各地でも再演を重ねてきた話題作です。
花がたみ ~上村松園の絵に基づく~ 作品55
能楽「花筐(はながたみ)」に基づき、無声映画さながらの“耳で観るドラマ”が展開。空虚な眼差し、手の形、歩みの陰影——松園の筆致が音になり、追憶から「狂ひの舞」へと心が揺らぐ。2022年の初演後も改訂が行われ、今回の出版譜が決定稿です。
樹蔭 ~上村松篁の絵に基づく~ 作品58
夏の木陰に身を寄せる小鳥(マミチャジナイ)——穏やかな筆致の裏に、母なる大樹へ寄り添う祈りが息づく小品。日常にそっと差す光のように、静けさの中で響きがふくらむ音楽です。
晨~上村淳之の絵に基づく~ 作品57
満月の残る夜明けに、白鷹が一閃。直観的に書き上げられた筆致は、最後の飛翔へ一直線に向かう清冽な曲線を描きます。タッチの切れと余韻の透明度が鍵。2022年初演版をもとにダイナミクスとアーティキュレーションを整えた新版です。
蛍 ~上村松園の絵に基づく~ 作品56
一匹の蛍に宿る時間の気配。わらべうたの面影を核に、松園が描いた複数の「蛍」の情緒が移ろいます。清楚な浴衣、母娘のささやき、簾の向こうの気配、そして絶筆「初夏の夕」へ。
焰~上村松園の絵に基づく~ 作品59
中止となった舞台の朝に、衝動のまま“一日で”立ち上がった火の音楽。六条御息所の烈しさと現代の「クラスター」=音塊がぶつかり、不協和が美へ転化します。
徳山 美奈子 プロフィール
東京藝術大学附属音楽高等学校を経て東京藝術大学、ベルリン芸術大学卒業。作曲を池内友次郎、矢代秋雄、尹伊桑に師事。1992年第5回福井ハープフェスティバル国際作曲コンクール優秀作曲賞受賞。1995年同コンクール審査員。同年、クラウディオ・アバド音楽監督による、1997年度ウィーン国際作曲コンクールにて第1位受賞(日本人初)。受賞作のバレエ作品「メメント・モリ」が、1996年ウィーン・モデルン音楽祭でのオーケストラ初演を経て、1997年ウィーン国立歌劇場バレエ団により振付、舞台上演される(6日間公演)。2003、2004年日本音楽コンクール作曲部門審査員。2006年第6回浜松国際ピアノコンクール日本人作品委嘱作曲家。同コンクール課題曲「ムジカ・ナラ」、2017年第29回日本ハープコンクール課題曲「オリエンタルガーデン」等が代表作。凛として優美な作風は吉野直子、福間洸太朗を始め、内外の多くの演奏家に愛され、再演を重ねている。2018年制作「序の舞〜上村松園の絵に基づく〜」は、フランスのLe Monde紙に「絹のように繊細な音楽」と評価された。一方で、NHK「みんなのうた」放映の「しんかいぎょのまち」等の親しみやすい作品も書き、近年はモノオペラ「或る若い医師の呟き」を始め、春日保人、春日信子への献呈作品を多く書いている。最新作のオラトリオ「光のみちを〜細川ガラシャの愛」(細川忠興役、春日保人)の2025年1月の初演では、實川風の指揮とピアノで大きな反響を呼んだ。