説明
昭和のギター界を牽引した名ギタリストによる、クラシックの名曲のギター編曲集。1973年に出版された『古典派ギター編曲集』に未発表曲を加えた完全版として再発。編曲者のオリジナル作品である2曲のハイドンの様式による「ソナタ」は、日本人ギター作曲家による知る人ぞ知る名曲である。
収録曲
- カッティング:アルマン
- キンダーマン:バレエ
- パーセル:プレリュード、アルマン、コランテ、ボリー、サラバンド、ジグ
- D.スカルラッティ:ソナタ L.263
- 石月一匡:ソナタ ハ長調
- ハイドン:メヌエット(ピアノソナタ第7番)、メヌエット(弦楽四重奏曲Op.1-1)、スケルツァンドとプレスト(バリトントリオ第70番)、アンダンテ(ピアノソナタ第14番)、アレグロ(ピアノソナタ第42番)
- 石月一匡:ソナタ ニ長調
- パガニーニ:グランドソナタ
- メンデルスゾーン=バルトルディ:無言歌Op.30-3、19-6(ヴェネチアのゴンドラの歌)、102-2、102-6、62-5(2ギター)、102-2(2ギター)、102-4(2ギター)
- シューマン:子供のためのアルバムより《メロディ》《兵士の行進》《コラール》《貧しい孤児》《小さな民謡》《初めての悲しみ》《北欧の歌》《大晦日の歌》、子供のためのソナタop.118-1
- ブラームス:ワルツOp.39-5
- ムソルグスキー:展覧会の絵より《古城》
- チャイコフスキー:子供のためのアルバムより《朝の祈り》《冬の朝》《木の兵隊の行進》《人形の葬式》《新しい人形》《農夫の歌》《古いフランスの歌》
- グリーグ:農夫の歌
- 石月一匡:ハーモニカと2つのギターのためのアレグロOp.9
序文より
本曲集は、1973年に共同音楽出版社から刊行された石月一匡編『古典派ギター編曲集』に、未出版であったロマン派音楽の編曲作品を加えて再編したものである。
石月一匡(1933-2003)は、阿部保夫、小原安正、奥田紘正、大沢一仁、近藤敏明らと並んで、昭和のクラシックギター界を牽引し、精力的な演奏活動の傍ら多くの後進を育てた。業績としては、今日広く愛奏されている『ジュリアーニ ギター名曲選』(全音楽譜出版社)などの曲集編纂のほか、ギター独奏、重奏、ギター室内楽のための作曲や編曲がある。
この曲集は、パガニーニの《グランド・ソナタ》など既存のギター・レパートリーに加え、パーセルやメンデルスゾーン=バルトルディ、シューマンの小品などクラシック音楽の名作をギター用に編曲したもののほか、石月一匡自身の作曲による《ハイドンの様式によるソナタ》ニ長調及びハ長調の 2 作品)が含まれている点に大きな特色がある。《ハイドンの様式によるソナタ》は、ハイドンを崇拝していた石月がその作曲様式を念入りに研究したうえでギターのために書き下ろしたオリジナル作品であるが、解説にて自身の作曲であることを記してはいるものの、譜面上はハイドンの編曲と書かれていたため、石月自身の作曲作品であることが一般には知られずに今日に至っている。自作・編曲共に、クラシックギターという枠組みにとどまらず、より普遍的なクラシック音楽の中にギター作品を位置付けようと試みた石月の並々ならぬ情熱が伺える。そのクオリティは今日においても幅広い世代のギタリスト達に受け入れられるものであると確信している。
この度、石月一匡夫人である祥子様のご助力を得て、ミューズ・プレスから本曲集を出版することとなった。令和のギタリスト達がこの知られざる昭和の巨匠の作品を愛奏してくれることを願ってやまない。
1933年、長野市生まれ。ギタリスト、ガンビスト、作曲家、編曲家。16歳よりギターと作曲を独学で始める。1969年、オスカー・ギリアによるマスタークラスのコンクール最優秀賞を受賞。ギター演奏を溝渕浩五郎、阿部保夫、オスカー・ギリアに師事。生涯を通じて、クラシック音楽におけるギターの地位向上に尽力した。ギターはヘルマン・ハウザー3世を愛用。
演奏活動では、ソロ以外にもギター室内楽を重点的に演奏し、数多くの作品を初演した。それらには、ギター五重奏曲(M.カステルヌーヴォ=テデスコ作曲)、ギターオブリガード付き交響曲(ボッケリーニ作曲)、ギター協奏曲(ボッケリーニ作曲、カサド編曲)などが含まれる。
1961年に「ギター室内楽協会」を設立・主催、当時は世界的にもギターを用いた室内楽を演奏する楽団は珍しかった。1983年には、ロココ音楽・古典派音楽の演奏を中心とする合奏団「ボーテン・デル・カンマムジーク」を組織した。出版物は、自作・編曲以外にも「ギター室内楽先週」(全音楽出版社)を始めとして室内楽譜が数多く、他にも好評を博した「ジュリアーニ・ギター名曲選」(全音)などがある。
2003年、東京で永眠。