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ピアノのための編曲作品の世界に魅了され、数々の知られざる編曲作品を取り上げているピアニスト・佐藤暖。佐藤暖はヴィンチェンツォ・マルテンポ編曲の「ダフニスとクロエ」(作曲:ラヴェル)の世界初演を行い大変な注目を集めています(編曲者本人は「あまりにも難易度が高すぎたのでこの編曲は今後演奏するつもりもない」と語っています)。
マルテンポ編の「ダフニスとクロエ」に触発された佐藤暖は同作曲家の「序奏とアレグロ」の編曲の構想を始め、2年半の月日を経てようやく完成。既にルシアン・ガルバンが「序奏とアレグロ」の編曲を行っていたことを知った佐藤暖は、自身が初編曲者でなかったことにいささか落胆したそうですが、佐藤暖はラヴェルのオリジナル楽曲に見られる彼独自のピアノ書法をふんだんに取り入れることを心掛け、ここにラヴェルの”新たなピアノ作品”が誕生しました。
編曲者・佐藤暖による自編自演動画
佐藤暖による序文(抜粋)
ラヴェルの「序奏とアレグロ」の編曲を手掛けるきっかけとなったのは2017年の夏に初めて作曲家自身が書いた2台ピアノ版を聴きながら、「上手くアレンジすれば一人でなんとか弾けるのではないか?」という自信満々な(厚かましい?)発想を膨らませたからであった。1905年、エラール社の開発したペダルハープの可能性を披露するために書かれたラヴェル初期の名作は、それぞれの楽器の美しさを駆使する能力もさることながら、至ってシンプルなモティーフを七変化させ、対位法的に折り重ねながら音楽的ストーリーを伝える、傑出した構成力を発揮した作品でもある。2016年の秋、私はヴィルトゥオーゾとして名高いヴィンチェンツォ・マルテンポ氏が編曲した「ダフニスとクロエ」第2組曲(ラヴェル作曲)を初演して、色々な意味で自信を付けていた。あの経験が無かったら「序奏とアレグロ」の編曲作業にこれほど精力的に取り組まなかったかもしれない。しかし、翌年の秋、様々なアイディアを試している最中、ラヴェルの旧友である、ルシアン・ガルバンが既に「序奏とアレグロ」のピアノ独奏版を書いていたと知り、自分が最初の編曲者でない事実に些かガッカリしたものの、難解な作業から免れることができて内心ホッとしたのも事実であった。その様な甘い考えに浸って、ガルバン版を弾いていたのも束の間、物足りなさを補う為に書き換えなくてはならない箇所を続々発見し、遂には“佐藤版”になってしまった。総譜と2台用の楽譜を研究し、これまで自分が弾いてきたラヴェルの楽曲に見られるピアニスティックな要素を取り入れ、いかに原曲から聞き取れる印象や総譜に見られるテクスチャーを忠実に、かつ十本の指で無理なく再現出来るか考えぬいた結果、この編曲が出来上がった。
佐藤暖(さとう だん)
熱狂的なピアノ好き、Dr. 佐藤 暖はソロ、室内楽、伴奏、教育、編曲等、ピアノと関係のある活動は殆どこなす、知られざるアーティストである。コンクール優勝、有名なオーケストラとの共演、カーネギーホールデビューの様な典型的な華々しいサクセスストーリーとは無縁のピアニストでありながら、先生にだけは恵まれて、これまでピーター・コラッジオ、フランク・ヒナハン、アンドレ・ワッツ、ジュディス・バーゲンガー、ケヴィン・ケナーに師事する。「いつもリサイタルを聴きに行くとコロッと寝てしまうのに、あなたの演奏だけは聴き始めたら全く寝れなかったわ!」といった称賛を受け、これまで主に米国各地の音楽祭に招かれ様々なレパートリーを演奏し好評を得ている。「Dr.」という肩書きは冗談ではなく、2016年にマイアミ大学フロスト音楽学校にて「湯山昭と《お菓子の世界》:教育的効果の考察」と題した論文を書き音楽博士号を取得している。現在ニューヨーク州シラキュース市を拠点に大学やオペラカンパニーのピアニストとして活動をし、サクソフォニストのディアーヌ・フンガー博士とチェリスト、リア・プレーヴとそれぞれCDをリリースしている。近年、ピアノ編曲の研究や収集を進めながら、ヴィンチェンツォ・マルテンポ編曲の「ダフニスとクロエ」第2組曲の世界初演を果たし、バレエ・リュスのレパートリーをテーマとしたソロプログラムを演奏する予定。