説明
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プッチーニの代表作のひとつである歌劇「蝶々夫人」から「ハミング・コーラス」が世界中で活躍するピアニスト、ニコライ・ホジャイノフによってピアノ独奏用作品として生まれ変わりました。この作品はオーケストラをバックにコーラスがハミングで歌う半ば合唱曲のような作品です。ホジャイノフは、トレモロを用いることでハミングの持つ独特で魅惑的な雰囲気を表現しました。なお、この編曲は日本でのピアノリサイタルでも演奏され、人気を博しています。
ニコライ・ホジャイノフによる楽曲解説
ここに、あらゆる作品の中でもっとも心に触れ、はかない美しさを持つオペラである、プッチーニの「蝶々夫人」より「ハミング・コーラス」のトランスクリプションをお届けします。
このコーラスは、心が光と希望で満ちる、切望がもたらした静かな幸福の場面で現れます。バタフライとスズキはピンカートンの船の姿を見つけ、彼の到着に備えて部屋を準備したところです。
その空間は、狂おしいほどの愛にあふれています。バタフライは、激情で胸がいっぱいになり、自分をほとんどコントロールすることができません。夜の闇は深まっていきますが、バタフライは、この3年間ずっとしてきたように、この日も愛する人を待ち続けます。彼女は眠ろうとしません。最も幸福なその瞬間を逃したくないからです。愛の果実であり、肉体の化身—彼女の子供も、部屋にいます。
私たちはその時、魔法のような香りに包まれ、薔薇やすみれ、百合の花びらがしきつめられた中に身を置いていることに気がつくでしょう。音楽とはとても不思議なものです。私たちは五感で、バタフライの部屋の神秘的な雰囲気や香りを感じることができるのです。私がピアノを愛する理由の一つは、この楽器は、オーケストラのあらゆる楽器、さらには人の声までも再現するようなイリュージョンを起こすことができるからです。私はしばらく、口を閉じて歌うこの格調高い歌声のイメージ、思い焦がれる魅惑的な雰囲気、そして深まる夜と喜びに満ちた心をどうすると表現できるか、考えていました。
そしてそれを象徴する手段として、トレモロを用いました。この音楽は幻影のように、永遠にやってこない未来への切望を湛えながら、ほんのいっとき私たちの前に現れます。わずかな間しか咲くことのない桜の花びらのようでありながら、私たちが束の間もとらえることのできない不思議な魅力にあふれているのです。
ニコライ・ホジャイノフ
ピアニスト、ニコライ・ホジャイノフの音楽性と恐るべきテクニックは、全世界の聴衆を魅了している。これまで、ニューヨークのカーネギーホールやリンカーン・センター、ワシントンのケネディ・センター、ロンドンのウィグモアホール、パリのシャンゼリゼ劇場やサル・ガヴォー、モスクワのチャイコフスキーホール、東京のサントリーホール、シドニー・オペラハウス、チューリッヒのトーンハレ、ローマのクイリナーレ宮殿、マドリード国立音楽堂、国連など、世界の主要なコンサートホールで演奏。リサイタルやコンチェルトで多くの会場を満席にしている。
ホジャイノフはこれまで、ロンドンのフィルハーモニア管弦楽団、東京交響楽 団、シドニー交響楽団、ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団、チェコ・ナショナル交響楽団、ロシア国立交響楽団、ロシア・フィルハーモニー管弦楽団、読売日本交響楽団、アイルランド RTEナショナル交響楽団などを含む多数のオーケストラと共演。
また多くの大統領や首相、文化界、政治界の要人から称賛を受けている。2018年1月の東京サントリーホール公演には、上皇明仁陛下、上皇后美智子陛下(当時の天皇皇后陛下)が臨席された。また 2022年には、スペインの王家から騎士の称号と勲章を授けられた。
1992年、ロシア極東のブラゴヴェシェンスクに生まれ、5歳でピアノを始めると音楽的な才能がすぐに見出された。中央音楽学校で学ぶためモスクワに移ったのち、7歳の頃、モスクワ音楽院大ホールでヘンデルのピアノ協奏曲を弾きコンサートデビュー。ゴールドメダルと最優秀学生賞を受けてモスクワ音楽院を卒業した。その後、ハノーファー音楽演劇大学でアリエ・ヴァルディ教授のもと学んで更なる学位を取得。現在はドイツに暮らす。
2012年ダブリン国際ピアノコンクール優勝。同年のシドニー国際ピアノコンクールでは、第2位および、シドニー交響楽団の楽員が選出する最優秀協奏曲賞、最優秀リスト演奏賞、最優秀シューベルト演奏賞、最優秀ヴィルトゥオーゾ研究賞、最年少ファイナリスト賞を受賞した。