ロン・イェディディア:12の大練習曲 第1集 第1巻(第1番-第4番)

69.72

税込|菊倍|40頁
序文(英語・日本語):ロン・イェディディア

説明

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ロン・イェディディアによる楽曲解説
「24の大練習曲」の最初の12曲は、2006年に作曲された第12番「山嶺」を除いて、その全曲が1993年から1997年にかけて作曲されました。私はこれら技巧的なピアノ作品を壮大な「ファンタジー・エチュード」として構想しましたが、それは各曲が持つ大規模な音楽構造の中に叙事詩的、描写的、時に標題音楽的な要素が含まれていること(伝統的な単一テーマの練習曲とは対照的な)、そして複数の音楽的なアイディアが含まれていることが理由です。私の音楽はリスト、ショパン、シューマン、スクリャービン、ラフマニノフ、ドビュッシー、ラヴェル、プロコフィエフなど、ロマン派や印象派から大きな影響を受けています。本作品は私の母国であるイスラエルのイメージに基づいていますが、このイメージは長いアメリカ生活の通して屈折したものになっています。

「大練習曲 第1番(右手のための)」演奏音源)は1993年に作曲され、アメリカの伝説的なピアニスト、レオン・フライシャー(1928-2020)に捧げられています。彼は、右手の局所的なジストニアのために、40年間(1964-2004)にわたって標準的なレパートリーを演奏することができませんでしたが、現代医学的な治療によって能力を取り戻し、最終的には両手でのピアノ演奏と録音活動を再開しました。叙情的でロマンティックなこのCマイナーの練習曲は、様々な調と旋律の組み合わせによる壮大な物語として構成されています。長年麻痺していた手の動きを奇跡的に回復させた偉大なピアニストが、再び栄光を手にすることを予見して書かれたユートピア・ファンタジーです。本来は右手用の練習曲ですが、左手だけで演奏することもできます。

「大練習曲 第2番」演奏音源)は、1994年に作曲され、ロシア生まれのイスラエルの名ピアニスト、ナターシャ・タドソン(1956年生おね)に捧げられています。タドソンが数年前にピアノソナタ 第3番「叫び」を演奏したことに触発され、アクロバティックな左手のアルペジオ、熱情的な単声・複声の旋律、冒険的な和声のテクスチャーと進行に焦点が当てられています。この曲は、Gミクソリディアン・モード/スケールという少し変わった旋法を基準にしています。このモード/スケールは長音階と比較して第7音が半音低いことが特徴的であり、通常用いられるF#が調号として存在しません。けれどもこのスケールは、同じ音を基準とした陰鬱なGマイナー、甘く訝しげなE♭メジャー、そして全く遠い存在でありながら内的には同一のC#ミクソリディアンとの対話を可能にしています。このような独特な和声は、豊かなニュアンスと色彩を曲にもたらし、拡張された幻想的なイメージは自由奔放に膨張と収縮を繰り返しながら、広大な地平線に到達して最後はゆっくりと謎めいて消えていきます。

「大練習曲 第3番」演奏音源)は、1994年に作曲され、カナダの世界的な技巧派ピアニストであるマルク=アンドレ・アムラン(1961年生まれ)に捧げられています。アムランがイェディディアのピアノソナタ 第3番「叫び」を見事に演奏したことをきっかけに、「ピアノソナタ 第5番」と「大練習曲 第3番」が作曲され、アムランに捧げられることになりました。 この練習曲は力強く、トッカータ風の曲であり、高速で変化する拍子に基づいた儀式的な踊りのリズムを特徴としています。主調はEbメジャーですが、曲の背景に存在しているF#メジャーの要素が複調の和声をもたらし、それが他の復調へと発展することで、曲は徐々に壮大なものになっていきます。本質的に打楽器的、和声的に力強く、一貫して変化するこの壮大な練習曲は、随所のクライマックスでエネルギーを放出することで、その大胆で毅然とした性格を明確に表現しています。

「大練習曲 第4番 “夜想曲”」演奏音源)は、1994年に作曲され、「イスラエルのピアノ界におけるファーストレディ」と呼ばれるプニーナ・ザルツマン(1922-2006)に捧げられています。ザルツマンの深いロマンティックで詩的な精神、膨大な音楽的知性、そして素晴らしいピアニズムは、20世紀前半にエコール・ノルマル音楽院とパリ音楽院で何世代にもわたって偉大なピアニストを育てたヨーロッパを代表するピアノの名手、アルフレッド・コルトーとマグダ・タリアフェロによって育まれました。この曲においてはザルツマンの偉大な遺産を吸収し、主にピアノ独奏曲という形でそれらを反映させています。 この壮大なB♭メジャーの「夜想曲」は、彼の師のロマンティックなイメージと精神に基づいて作曲され、愛や憧れ、空想や夢といった感情を鋭敏な方法で表現しています。2016年12月にテルアビブ音楽院で行われた、ザルツマン氏の没後10年を記念した式典において、この曲を自演する機会があり、その様子はこの式典のために制作された映像に収められています。


ロン・イェディディア
彼の作品は過去20年間に国際的な注目を浴びるようになりました。彼の作品は世界の主要なコンサートホールで取り上げられている他、映画、ラジオ、テレビ番組にも登場し、彼の作曲家兼ピアニストとしての地位を確かなものにしています。1960年、イスラエルのテルアビブに生まれ、幼い頃からアルフレッド・コルトーの弟子であったプニーナ・ザルツマンのもとでピアノを学びました。8歳にして「Young Concert Artists Competition of Israel」で第1位を受賞しピアニストしてのキャリアをスタートさせましたが、15歳で作曲家の道に進むことを決意します。1984年にジュリアード音楽院の作曲科に進学しデイヴィッド・ダイアモンドやミルトン・バビットの元で研鑽を積みながらLincoln Center Scholarship、the Irving Berlin Scholarship、Henry Mancini Prize、the Richard Rodgers Scholarship等の主要な賞や奨学金を贈与された他、1987年と1989年にはジュリアード作曲コンクールに入賞しました。1991年に同音楽院の博士課程を卒業した後は当時の現代音楽の流行からの脱却を決意し、伝統的な旋律 - 和声 - 形式 - 耽美主義 - 和声感 - ドラマ性 - 対話性の再構築に乗り出しました。彼はフォークやジャズといったクラシック以外のジャンルも愛好しており、これらの音楽が根源的に調性に基づいていることから、彼の音楽語法の拡大に結びつきました。彼は現在まで、独奏から大編成オーケストラ作品、宗教音楽やフォークソングなども生み出しています。2007年5月にはオーケストラ作品「ステップ・イン・ザ・ワンダーランド」の世界初演がイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団によって行われました。主な作曲委嘱元には サン・アントニオ国際ピアノコンクール(ラプソディー、2006年)、 シアトル室内楽協会(ピアノとクラリネットとチェロのためのトリオ、2007年)、 ニューヨークのZamir Choraleがあり、2009年には、マンハッタンのBaruch Performing Arts Centerで開催されたThe Concert Meister Seriesのレジデントコンポーザーを務め、数々の作品がベルリン・フィルハーモニー管弦楽団等の著名なオーケストラによって演奏されました。1994年にはワンダ・トスカニーニ=ホロヴィッツの依頼によりウラディミール・ホロヴィッツの未出版ピアノ作品の校訂と録音にも携わっています。

現在までにイェディディアの作品は、EMIやナクソス、ソニーBMGなどの大手レーベルにも収録されました。イギリスのレーベル・Altarusによってリリースされた自作自演アルバム『Yedidia Plays Yedidia』は世界中の作曲家やピアニストから注目を浴び話題となりました。また、ニューヨーク・ピアノ・アカデミーの創設者でもあり後進の育成に力を注ぎ多くの作曲家やピアニストを育て上げています。

追加情報

重さ 200 g
サイズ 30 × 23 × 0.2 mm