説明
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1987年、ロシア(旧ソ連)の出版社から出版されたダニエル・クラーメルの《6つの演奏会用練習曲》は、ニコライ・カプースチンの《8つの演奏会用練習曲》と合本で9930部ほど発行されたにも関わらず大変入手困難な楽譜でありました。しかし、今回の再出版にあたって、クラ―メルによって運指の追加、テンポの見直しなど楽譜が改訂されることになりました。また、演奏会用練習曲と併せて、これまでは第三者による非公式の採譜版しか出回っていなかった彼の代表作である《クレド》のロングバージョンもクラーメルによって監修され、この楽譜に正式版として収録されました。
収録楽曲
◆6つの演奏会用練習曲
1. Freeway
2. Inspiration (Credo)
3. Etude-Humoresque “Little Devil”
4. Aspiration
5. Spring Mood
6. Movement
◆クレド(ロングバージョン)
ダニエル・クラーメルによる楽曲解説
今回収録された«6つの演奏会用練習曲»は、1984年から1987年にかけて作曲されたものです。20世紀80年代のソ連において、ジャズ音楽は、「親米」音楽のように言われる一方で、「鉄のカーテン」の中に存在する様々な情報源を基に急速に発展するという、少々奇妙な状況にありました。私は1983年にグネーシン研究所(現ロシア音楽アカデミー)を卒業し、1984年にヴィテプスク(ベラルーシ)で行われたプロのジャズフェスティバルに初めて出演することになりました。この«クレド»はこの演奏会のために書いた«6つの演奏会用練習曲»の1つです。私はそのときから、クラシックとジャズを同時に愛し、両方を生涯にわたって演奏していくことを知っていたので、このような名前をつけました。私は、当時から自分の国におけるジャズとクラシックの融合に大きな可能性を感じていましたが、時が経つにつれ、その考えは間違っていなかったことが分かってきました。1987年、出版社「ソビエト音楽」が私の«6つの演奏会用練習曲»をニコライ・カプースチンの«8つの演奏会練習曲»と一緒に出版することを決めたとき、私は«クレド»という名前を残すことが許されませんでした。当時の編集者によると、«クレド»という名は思想的に間違っており、宗教的な願望を美化しているということでした。私がこのタイトルの本当の意味を説明しても理解されることはなく、この練習曲は編集者によって«インスピレーション»と呼ばれるようになりました。それでも私は、コンサートにおいては«クレド»の名を掲げ続けました。
他の5つの練習曲については、出版時に問題はありませんでした。これらは、特にプロのピアノやプロのジャズピアノの技術を身につけるために書かれたものです。純粋な芸術的課題だけでなく、各練習曲には指使いや 記号で強調された技術的課題も明確に定義されています。練習曲が様々なスタイルで書かれているのは、演奏スタイル面での練習も追及したためです。
練習曲への取り組みと演奏の両方が演奏者にとって楽しいものであること、また聴く人にとっても楽しい音楽であることを、心から願っています。
ダニエル・クラーメル(Даниил Крамер)
ダニエル・クラーメルはロシア・ジャズ界の異端児である。様々なスタイルに精通した高い技術を持つピアニスト、優れた作曲家、有能な指導者、テレビの司会者としてのその才能を発揮して多彩な活動を行っている。彼の多面的な活動は、ロシアにおけるジャズとその普及に捧げられているが、同時にロシア・ジャズとロシアの音楽シーンを牽引する一人となっている。1984年以降、国内のほとんどのジャズフェスティバルに参加し、集中的なツアーを行う。1988年からは、海外でのコンサートやフェスティバルの活動も開始した。フランス、アメリカ、スペイン、オーストラリア、チェコスロバキア、イタリア、スウェーデン、ハンガリー、ポーランド、オーストリア、ドイツ、フィンランド、中国、アフリカ、中央アメリカなどでソロ・コンサートや様々なミュージシャンとの共演を行った。Munchner Klaviersommer(ドイツ)、Manly Jazz Festival(オーストラリア)、European Jazz Festival(スペイン)、Baltic Jazz Festival(フィンランド)、Foire de Paris(フランス)など多くの主要国際ジャズフェスティバルに参加し、シドニー・プロフェッショナル・ジャズ・クラブの名誉会員にも選出されている。
1995年以降は、ロシア国内で、「アカデミックホールでのジャズ音楽」、「ダニエル・クラーメルとジャズの夕べ」、「クラシックとジャズ」、「ミュージアム・ジャズ」といった様々なコンサートサイクルを開催している。モスクワでは(モスクワ国際音楽院、ボリショイ音楽院、グリンカ記念博物館)通常のコンサート形式で行いつつ、地方都市の多く(エカテリンブルク、チューメン、オムスク、ペルミ、イジェフスク、サマラ、サラトフ、トリヤッチ、クラスノヤルスク、カザン、ウファ、ベルゴロド)では年間の定期公演として行い、好評を得ている。
クラーメルは創作活動の中で、ロシアや海外の一流音楽家の交流を通して、多くのコンサート・プロジェクトやプログラムを作り上げてきた。例えば、モスクワ国立室内管弦楽団「ヴィルトゥオージ」、「ムジカ・ヴィヴァ」、パヴェル・コーガン管弦楽団、ロシア・フィルハーモニー、「プリマヴェーラ」、「カメラータ・ド・ブルゴーニュ」等、多くの交響楽団、室内楽団とのコラボレーションも重要な位置を占めている。ジャズ、ポップ・ジャズ、クラシックといった複数の分野で活躍しており、ジャズのみならず、交響楽団のコンサートにもソリストとして参加し、海外公演も多い。同時にヨーロッパの多くの演奏家やアンサンブルと共演し、ジャズフェスティバルやアカデミックフェスティバルにも参加している。
クラーメルは複数のロシアのジャズフェスティバルの芸術監督、様々なジャズコンテストの審査員や司会も務めているほか、モスクワ現代芸術大学ジャズ部門の責任者として教職のキャリアを続けている。2017年より、ロシア連邦チャンネルOTRの番組「True Role」の著者兼司会者。ソロコンサートでは、伝統的なジャズ、様々なタイプのモダンジャズ音楽、クラシックなど、様々な方向性の音楽を演奏しているピアニストである。