2020年10月の新刊情報(フォンテーヌ、ナモラーゼ、濱川)

10月末の新刊情報です。発送は10月27日(火)より順次行います。

アレクサンドル・フォンテーヌ:前奏曲とフーガ 作品44

フランスを拠点に活躍する作曲家 アレクサンドル・フォンテーヌは、彼の友人でもある福間洸太朗の依頼によって、ひとつのピアノ作品を完成させました。その名は『「なんと儚く、なんと虚しいことだろうか」- 前奏曲とフーガ』。「前奏曲とフーガ」という題名から想起されるように、フォンテーヌはバッハに対するオマージュとしてこの作品を書き下ろしました。

2ページほどの短い前奏曲では、重々しくも華やかなコラールが展開され、徐々に音量が増しピアニスティックなフーガへと突入します。フーガには対位法、対主題、反行はもちろん、黄金比やフィボナッチ数列などの数学的技法も取り入れられています。本作品は、2012年11月8日に福間洸太朗よりベルリンにて世界初演され、2015年1月27日に東京オペラシティで開催された「B→C」(ビートゥーシー)にて日本初演されています。福間洸太朗による演奏の音源を以下の動画で聴くことができます。


突如現れた異色の天才ピアニストであるニコラス・ナモラーゼ。クラシック音楽最高峰のコンクールのひとつ、カナダのカルガリーで開催されたホーネンス国際ピアノコンペティションで2018年に優勝し、国際的な注目を浴びるようになりました。世界中の様々なメディアからは絶賛され、来年はイギリスのクラシックレーベルのハイペリオンよりCDのリリースも予定されています。ピアニストとして活躍する一方、彼は作曲家としても活動しており、これまでにチェルシー音楽祭、ホーネンスフェスティバル、サンタフェなどの音楽祭から作品委嘱を受けています。今回ミューズプレスが出版するものは、彼がピアノのために書いた作品です。この出版プロジェクトはSonetto ClassicsのCEOである澤渡朋之氏の協力によって実現しました。

ニコラス・ナモラーゼ:エチュード I – VI

2015年から2019年にかけて書かれたピアノのための「エチュード I-VI」は、テクスチュアや音型の基盤となる特有のピアニスティックな技術的課題に着想を得ている点で伝統的なエチュードと言えますが、「長音階」「主に三和音」「動く鏡」「崩された和音」「もつれた糸」 「二つの音」と言ったやや異質なタイトルを持ち、現代的なアプローチでエチュードという形式が追求されています。技術的にもかなり高度なものが求められるために演奏は容易ではありませんが、少しでも演奏者の助けになるために8ページほどの練習法を記した別冊が付属します。先に述べたホーネンス国際ピアノコンペティションでの自演(エチュードIからIIIまで)がコチラで聴けます。


ニコラス・ナモラーゼ:アラベスク

作曲者によると「アラベスク」は、ヴィジュアル・アートの分野で定義される「アラベスク」の法則、つまり装飾的で、螺旋状に織り込まれたパターンという法則に基づいていて作曲されたそうです。 ピアニストの両手が複雑に交差しつつ、それぞれ2本の手があたかも独立した意思を持つような表現を求められる作品です。この作品もまたナモラーゼ本人による演奏でコチラから聞くことができます。

「アラベスク」の冒頭

ニコラス・ナモラーゼ:月、屈折する – 滝廉太郎の「荒城の月」に基づく変奏曲(2019)

「Moon, Refracted(月、屈折する)」は、ニコラス・ナモラーゼが初めての日本ツアーのために先んじて作曲されました。滝廉太郎によって作曲された歌曲「荒城の月」の主題に基づき、単一変奏曲が続きます。日本的な美学であり「侘び寂び」の概念の中にある要素に影響を受けながら、ナモラーゼは新たな「荒城の月」を生み出しました。2019年の来日の際に演奏された様子がコチラで聴けます。

ニコラス・ナモラーゼはアイエムシー音楽出版の招聘により2020年6月に来日が予定されていましたが、現在発生しているCOVID-19の影響により公演中止となってしまいました。詳細は未定ですが再来日も計画されているそうです。


濱川礼:左手のための「横濱ノスタルジア」

電気メーカー勤務を経て2020年現在、中京大学工学部教授も務める作曲家・ピアニストの濱川礼は横浜に大変な愛着を寄せ、横浜の持つ異国情緒や伝統・近代化をひとつの曲に仕立て上げました。その名も「横濱ノスタルジア」。本作品は、2018年に作曲コンクール RMN International Call for Piano Solo Worksで優勝を果たし、RMN Musicよりリリースされたピアノアルバム「Modern Music for Piano」にも収録され、注目を浴びました。

濱川が横浜らしさの一つとして着目したのが、山下公園に設置された少女像でも有名な「赤い靴」(作曲:本居長世、作詞:野口雨情)です。その「赤い靴」の和声進行から新たな旋律を創造、またその旋律に新たなハーモニーをつけたり(リハーモナイズ)、ジャズの4ビート(いわゆるスイング)を援用したり、4ビットのバイナリ(2進法)に基づくリズムを用いたりと、個性的な作曲技法が凝らされています。また、中間部には花火を模した特殊奏法も登場し、横浜をよりいっそう強く感じることができます。本作品は左手のみで演奏されるピアノ曲です。