エドゥアルド・バグダサリアン:ピアノのための「24の前奏曲」

24の前奏曲(表紙)

エドゥアルド・バグダサリアン、彼はアルメニアをの音楽を語る上で絶対に欠かせない作曲家。彼の代表作のひとつであるピアノのために書かれた「24の前奏曲」を出版します。「24の前奏曲」は、1951年、1953年、1954年、そして1958年にそれぞれ6曲ずつ作曲され、1961年に初出版されました。しかしながら、程なくして絶版となり、楽譜の入手も極めて困難となりました。今回、アルメニアのピアノ音楽のスペシャリストとしてもを知られるアルメニア出身・アメリカ在住のピアニストであるラフィ・ベサリアンによって誤植が多数存在していた初版楽譜が見直され、新たにベサリアンの校訂版として登場します。また、ベサリアン自身による運指も付け加えられ、これから作品を学ぶ方にとって手助けとなるでしょう。

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(発送予定日:2021年11月2日)
5000円(税込)|菊倍版(リング製本)|82頁
校訂・運指:ラフィ・ベサリアン
ISBN978-4-909668-79-0

「24の前奏曲」の中でも代表的な作品である第6番(演奏:ラフィ・ベサリアン)

ラフィ・ベサリアンによる楽曲解説
特異な発想、充溢した比喩的イメージ、濃厚で新鮮なハーモニーの表現、民謡に感化され更にバグダサリアンによってより濃くされたアルメニア音楽の色彩はこの作曲集特有のものである。更にバグダサリアン自身の流暢な鍵盤さばきが様々なピアノテクニックを用いた多種多様な個々の前奏曲の作曲を発展する根源となったのであろう。第2番は舞曲であり、アルメニア民謡の中でももっとも流行したスタイル、そしてこの作品集内でもよく使われているジャンルである。それとは別に第3番は東洋風のプレストエチュード。そして、第4番は技巧的なトッカータ。もっとも表現豊かでロマンチックな壮大たる第6番は、色彩豊かでヴィルトゥオージックな『絵画』であり、アルメニアの広大な風景を連想させ、「24の前奏曲」のハイライトと言える程の代表的な作品である。エスニックな遊び心にジャズ的な要素を含みながらも中間にベースラインのソノリティーが駆動する第7番。儚い美しさの中にニューエイジ音楽を仄めかす第8番では、上品に透明感のある印象主義的なカラーをも纏う。第9番は優雅なメヌエット。そして、第11番でバグダサリアンは、ひとつの独特なフィギュレーションを曲全体において発展させ、ミステリアスなトランクイロ(A部, A’部)が底力のあるダンスのような展開部(B部)と見事に並置される。印象音楽のようにはじまる第14番はやがて情熱的なラフマニノフのように中部で迫力とドラマを伴う。第18番はショパンのような親密なノクターン。短い曲である第23番のトッカータは本作品集内のもうひとつのクライマックスとなり、痛烈かつ刺激的である第24番はそのラプソディックな気質にとても感動的なアルメニア歌曲のようなメロディーをたずさえる。まるでバラードのように。


エドゥアルド・バグダサリアン(Eduard Baghdasarian)
アルメニア音楽の近代発展において重要な存在である。輝かしいピアニストであり作曲家、そして教育者でもあったバグダサリアンは彼の故郷であるアルメニア共和国により1963年に『名誉芸術家』と命名された。エレヴァンのコミタス音楽大学でG.V.サラジェヴ氏(ピアノ)とG.I.イェギザリアン氏(作曲)の門下よりピアノ科と作曲科の両課程で学位を取得。その後1951年から1953年の間、モスクワでG.I.リティンスキー氏のもとで博士号を取得する。その間、1953年にバグダサリアンはアルメニアの遠隔地へ旅をしながら各地の民謡などを収集し、そのメロディーを彼自身の作曲に次々と用いた。(まさに『アルメニア音楽の父』と呼ばれるコミタス・ヴァスルダペットが20世紀初頭に行ったことと同じである。)バグダサリアンはロマノス・メリキアン音楽大学教授を勤めたのちエレヴァン・コミタス音楽大学の教授となった。

バグダサリアンは全ての音楽ジャンルに精通し、クラシック、ジャズ、ポップや付随音楽を作曲し、アルメニアの中世音楽を編集した作品集まで見事に作り上げた。彼がほぼ全てのジャンルでの作曲を手がける。そんな中、バレエ曲『チェス』(1960)とピアノ協奏曲(1970)は、もっとも有名と言えることができ、バグダサリアンの創造性の主な焦点はピアノを用いた楽曲にある。彼の素晴らしい感性とピアノという楽器の性質に対する理解力は、最高度の表現を用いた作曲を可能にした。アルメニア民謡や伝統音楽を根元に、またそこに自然と繋がる彼自身のピアノ楽曲のスタイルを開花する事が出来たのである。バグダサリアンの作品の中で是非ここで記載しておきたいのは、ピアノ五重奏、24の前奏曲、クラリネットとピアノのためのソナタ、ピアノのためのアルメニアン・フォークダンス作品集、そしてかの有名なヴァイオリンとピアノのためのラプソディーとノクターン。バグダサリアンは度々、彼自身の作品の初演コンサートを行ったことでも知られている。

ラフィ・ベサリアン(Raffi Besalyan)
「ホロヴィッツらのロシアンピアニズムの正統を受け継ぐ存在」(ショパン誌)、「伴盤の奇才」(ファンファーレ誌)、「威厳ある存在と解釈の天分に恵まれた驚異のピアニスト」(アメリカン レコー ドガイド)、「力強く切れのよいタッチ、たっぷりと情緒のこもる表現を聴かせるなど高い水準を行く充実したリサイタルはこのピアニストへの注目をうながすに十分だ」(レコード芸術)と称賛され たラフィ・ベサリアンは、人を引きつける魅力と情熱によりその国際的な名声を確立した。

アルメニア・エレバン生まれのベサリアンは、特別英才児のためのチャイコフスキー音楽学校で学んだ後、エレバン・コミタス音楽大学で音楽修士号、及び博士号を取得。更に米国ローワン大学、ニューヨークのマンハッタン音楽大学で学位を取得。セルゲイ・ベルセギアン、著名なアメリカのピアニストであるバイロン・ジャニスに師事。モスクワ国立音楽院においてアレクセイ・ナセドキン、ヴィクター・メルジァノフ、ナウム・シュタルクマンに師事し研鑽を積む。ジョセフ・ホフマン国際コンクール、ニューヨーク フリンナ・アーバーバック国際コンクール、 アーティスト国際コンクールなどでも優勝。北米南米、ヨーロッパ、ロシアそしてアジアで演奏活動を繰り広げ、彼の演奏は2003年のカーネギーホールデビューをはじめ、ニューヨークのマーキンホール、ケネディ―センター、シカゴ・オーケストラホール、アトランタ・シンフォニーホール、デトロイト・マックス・フィッシャーミ ュージックホール、モスクワ音楽院ラフマニノフホール、ロシアのマリーザル、そして日本ではいずみホール、フェニックスホールなど名声ある会場において喝采を受けてきた。
公式ページ(https://www.raffibesalyan.com/)

2021年10月の新刊情報(今泉響平、齊藤一也、夏目恭宏、アダム・ゴルカ)

2021年10月の新刊情報です。発送は10月11日より順次行います。

ラヴェル/今泉 響平:アダージョ・アッサイ 第2楽章 -「ピアノ協奏曲 ト長調」より(ピアノ独奏編曲)
2021年第45回ピティナ・ピアノコンペティション特級にて第3位に輝いた今泉響平による編曲作品が初出版です。フランスの作曲家モーリス・ラヴェルの代表作の一つでもある「ピアノ協奏曲 ト長調(Concert en sol)」から第2楽章「アダージョ・アッサイ」を今泉響平がピアノ独奏用に編曲しました。オーケストラの響きを失わないように可能な限りの音は取りつつも原曲が持つ音楽性は失わないように細かな配慮が施されており今泉の編曲センスが光ります。なお、本編曲は10月15日(福岡)10月30日(東京)に開催される演奏会のプログラムとしても取り上げられ、本編曲の楽譜も含む物販及びサイン会も実施される予定です。

齊藤 一也:ショパンの「小犬のワルツ」による即興曲 ― ネコ好きのための ―
皆さんは犬や猫はお好きでしょうか。ピアニストの齊藤一也が八ヶ岳北杜国際音楽祭にてサン=サーンス作曲の「動物の謝肉祭」を演奏した際に余興として他にも動物が登場する楽曲を演奏してほしいという要望に応え生まれた編曲、その名も《ショパンの「小犬のワルツ」による即興曲 ― ネコ好きのための ―》。ショパンの「小犬のワルツ」と誰もが一度は耳にしたことがある「猫ふんじゃった」が見事な融合を果たします。「小犬のワルツ」の持つ気品さはそのままに、カプリッチョ的な性格と即興的な要素をふんだんに取り入れ、アンコールピースとしても大いに盛り上がるような工夫が凝らされています。

ガブリエル・フォーレ/夏目恭宏:パヴァーヌ(ピアノ1台4手連弾)
フォーレの作品の中で傑作としても名高い「パヴァーヌ」 。元々は管弦楽曲のための作品として作曲されました。また、その旋律の静謐な美しさ故にこれまでに様々な編成で演奏され多くの人々に親しまれています。フォーレ自身による演奏がピアノロールとしても現存しており、味わい深い演奏を聴くこともできます。編曲者である夏目恭宏は、雪の舞い散る情景にインスピレーションを得て本作品の編曲に取り組み、2オクターブでの動きを基調に据えており、クリスタルのような、ガラス細工のような繊細な響きをピアノから引き出すことを目指しています。YNPianoDuoによる演奏はコチラからご視聴いただけます。

アダム・ゴルカ:トルコ練習曲(ピアノのために)
主にアメリカやヨーロッパで大活躍しているピアニストのアダム・ゴルカによる作品が初出版です。日々厳しい練習を行っていた10代のアダム・ゴルカは、時折休憩も兼ねて寄り道をすることがあり、ホロヴィッツやヴォロドスのパラフレーズの採譜に勤しんでいました。ある日、彼の師であるジョゼ・フェガリとのレッスンでヴォロドス編曲の「トルコ行進曲」を弾いた際、ゴルカ自身がショパンの練習曲 Op.10-2で日々悩んでいることを知っていた彼は、モーツァルトの有名なロンドを自己流にパラフレーズした上で、この2曲を組み合わせてはどうかと提案してきたそう。その結果が今回出版される「トルコ行進曲(Etude Alla Turca)」です。今回特別にアダム・ゴルカの許可を得て当時10代のゴルカが演奏する「トルコ練習曲」の音源をお届けします。

ショータの楽譜探訪記(2)「スペインの思い出(1)」

こんにちは、ショータです。連載記事「ショータの楽譜探訪記」の第1回目から随分と期間が空いてしまいました。先週、私のもとに信じがたいニュースが舞い込んできました。アレクシス・ワイセンベルクのご息女であるマリア・ワイセンベルクさんの訃報です。マリアさんは父アレクシスが遺した膨大な音源、コラージュ、ピアノ曲、ミュージカル等の数々の作品を少しでも多くの人々に知ってほしいという情熱からAlexis Weissenberg Archiveというウェブサイトを数年前(少なくとも6年前)から運営していました。なお後から触れますが、ミューズプレスから刊行中の「シャルル・トレネによる6つの歌の編曲」は、マリアさんの多大な尽力なしには実現できなかったと強く思います。

マリア・ワイセンベルクと私
(2017年1月・スペインにて)

あまりにも突然すぎる訃報に私は居ても立っても居られず、マリアさんとの出会いから「シャルル・トレネによる6つの歌の編曲」の出版までの思い出をここに書き残すことにしました。

マリアさんと実際にお会いしたのは2017年1月11日、アーカイブ兼住居のあるスペインのマドリードに訪れたときでした。しかし、実際にお会いする前からもメールで情報交換を行っており、メールの送信履歴を覗くと初めてのコンタクトは2016年5月でした。未だについ最近の出来事のように感じます。

マリアさんとやりとりを始めるきっかけとなったのは、Alexis Weissenberg ArchiveのCompositions/Other Scoresのセクションに一部掲載されていたワイセンベルクのピアノのための作品「Variation on a Popular Japanese Theme」(左画像)でした。ちなみに、”a Popular Japanese Theme”とは山田耕筰の「この道」を指しています。当時、私は日本歌曲をベースとしたピアノのための編曲作品がどのくらい存在するのか、個人的な興味でリサーチしていたのですが、日本人による編曲は見つかるものの、海外の音楽家によるものはあまり見かけませんでした。そんな中、大ピアニストであるアレクシス・ワイセンベルクが「この道」を主題とした変奏曲(Variationと単数形)を書いていると知った私は、すぐさま出版予定があるのか伺うメールをサイトのContact Usから送ったのでした。

知らない人にメールを送ったあとは、本当に返事がもらえるものかとそわそわするものです。有難いことにメールを書いた翌日にはすぐにお返事をいただけました。その時からマリアさんとのやりとりが始まりました。「My father loved Japan and I suppose this is a tribute to your country and its art.(私の父は日本を愛していました。この作品は日本、そして日本の芸術に対する敬意でしょう)」という文面で始まるメールには、今回は特別ということで無償で楽譜データも添付されていました。当時は”a Popular Japanese Theme”が何の曲かをマリアさんはご存じではなかったので、原曲の音源(YouTube)のリンクをお送りしました。

当然ながらマリアさんから頂いた「Variation on a Popular Japanese Theme」は自筆譜でした。当時、私は楽譜浄書家としてボランティアで自身が興味を持った楽曲の浄書を行っていましたので、すぐさまその自筆譜の浄書に取り掛かりました。2ページの短い楽曲だったので、3時間ほどで作業が終わりすぐにマリアさんにお送りすることができました。それまで私はあのワイセンベルクの楽譜を浄書することができるなんて、夢にも思っていませんでした。その後、マリアさんとは何度か連絡を交わし、ワイセンベルクのクラシック作品やジャズ作品などの出版計画があることを知ります。ヨーロッパの大手楽譜出版社にも声をかけていたそうです。一部ジャズ作品については著作権関係の問題の解決にも奔走されていました。

約2か月後、私は別件でマリアさんに再びご連絡をしました。ワイセンベルク編曲の「シャルル・トレネによる6つの歌の編曲」について尋ねるためです。この編曲はご存じの方も多いでしょうが、ワイセンベルクが1950年代にMr. Nobodyという匿名でLumen社よりリリースした作品として現在は知られています。2008年にピアニストのマルク=アンドレ・アムランが上記の編曲を含むCD「Marc-André Hamelin in a state of jazz」をリリースしたことにより話題となりましたが、2008年当時は「シャルル・トレネによる6つの歌の編曲」の楽譜は存在しないとワイセンベルクが語っていたために、アムランが採譜を行っての録音でした。CDがリリースされた頃、私はまだ高校2年生、どうしても楽譜を手に入れたいと高校の英語の先生に手助けを求め、アムランが所属する音楽事務所に英語でファンレターを送ったのでした。結局は返事は来ませんでしたが、後々(と言っても2018年あたり)になってアムランと話す機会がありトレネの話題にもなり「私が採譜したトレネ/ワイセンベルクの楽譜が欲しいというお便りをこれまでに沢山もらったが、著作権の関係もあって誰にも渡すことができなかった」と語っていました。ミューズプレスによって出版されるまで「シャルル・トレネによる6つの歌の編曲」は超入手困難の伝説の楽譜となっていました。

トレネ/ワイセンベルク「街角」:マルク=アンドレ・アムランの自筆譜

次回は、「シャルル・トレネによる6つの歌の編曲」がどのように出版に至ることになったのか、そして実際にスペインでお会いした際にマリアさんがどうしても取り上げたいお父様の作品があるとも仰っていました。そのことについて書きたいと思います。

黛敏郎「君が代」と絶筆の「パッサカリア」

黛 敏郎

日本を代表する作曲家として現在も高い人気を誇る作曲家・黛敏郎。今回、ミューズプレスでは、日本の作曲家専門レーベル スリーシェルズの代表を務める音楽評論家の西耕一氏と黛家の協力のもと黛敏郎の編曲作品と絶筆となった未完のオーケストラ作品2点のフルスコアを出版します。

本日より2021年2月28日まで予約受付とします。発送は2021年3月1日より順次行います。なお、予約受付期間内にご予約をいただいたお客様には日本国内に限り送料無料でお送りさせていただきます。

黛敏郎 編曲「君が代」
黛敏郎の管弦楽編曲による《君が代》。これは伝統と現代の間で悩み、独自の音を探求してきた作曲家による一つの返答である。日本の伝統音楽を基にした《BUGAKU》や《昭和天平楽》とも共通する音響美がある。自国の文化、伝統が、未来に受け継がれ、続いてほしいと願うことに何の不条理があろうか。(西耕一)

黛敏郎 編曲:日本国歌「君が代」(オーケストラ編曲)
2000円(税込)
菊倍版|12頁
解説:西耕一
企画協力:スリーシェルズ、黛家


黛敏郎 作曲「パッサカリア」(未完・絶筆)
当時、指揮者・岩城宏之が率いるオーケストラ・アンサンブル金沢の委嘱により「パッサカリア」の作曲を始めた黛敏郎。コントラバスやハープによる空虚な5度和音を土台として不穏なピッコロソロに始まり、次第に様々な楽器も加わり、ベートーヴェンやモーツァルト、バッハなどの作品の断片が随所で駆け回ります。そこには混沌とした世界が広がります。この作品は、無念にも黛の死により完成されることはありませんでした。

《パッサカリア》は、黛敏郎の遺作であり未完。盟友・岩城宏之の率いるオーケストラ・アンサンブル金沢のための作曲であり、プリペアド・ピアノ協奏曲を構想していた。既に何度か死線を彷徨い、入院中に、テレビ番組や講演、会議等と並行しての作曲だった。しかし、その筆に迷いはない。(西耕一)

黛敏郎:パッサカリア(未完・絶筆)
2000円(税込)
菊倍版|12頁
解説:西耕一
企画協力:スリーシェルズ、黛家


これまでに弊社で刊行した黛敏郎の作品

黛 敏郎(まゆずみ としろう)
1929年(昭和4年)2月20日、横浜生まれ。東京音楽学校(東京藝術大学)で橋本國彦、池内友次郎、伊福部昭等に師事。1948年(昭和23年)に作曲した「拾個の独奏楽器の為のディヴェルティメント」により才能を認められる。1950年(昭和25年)作曲の「スフェノグラム」は、翌年のISCM国際現代音楽祭に入選して海外でも知られるようになる。1951年(昭和26年)パリ・コンセルヴァトワールへ留学、トニー・オーバン等に学ぶ。フランスから帰国後、ミュージック・コンクレートや日本初の電子音楽を手がけた。1953年(昭和28年)芥川也寸志、團伊玖磨と「3人の会」を結成。また、吉田秀和等と「二十世紀音楽研究所」を設立。雅楽・声明をはじめ、日本の伝統音楽にも造詣を深める一方、交響曲、バレエ、オペラ、映画音楽等の大作を発表した。1964年(昭和39年)より、テレビ番組「題名のない音楽会」の企画、出演。東京藝術大学講師、茶道「裏千家淡交会」顧問、評議員。「日本作曲家協議会」会長、「日本著作権協会」会長などを歴任した。 「涅槃交響曲」(1958)で第7回尾高賞、「BUGAKU」で第15回尾高賞を受賞。 主な作品に「ルンバ・ラプソディ」(1948)、「饗宴」(1954)、「曼荼羅交響曲」(1960)、「シロフォン小協奏曲」(1965)、オペラ「金閣寺」(1976)、「KOJIKI」(1993)、バレエ「The KABUKI」(1986)「M」(1993)他がある。ピアノ曲は、「前奏曲」「金の枝の踊り」「天地創造」などがある。ISCM入選(昭和31、32、38年)。毎日映画コンクール音楽賞(昭和25、32、38、40年)。毎日演劇賞(昭和33年)。ブルーリボン賞(昭和40年)。仏教伝道文化賞(昭和50年)。紫綬褒章(昭和61年)。 1997年(平成9年)4月10日逝去。

ピアニート公爵編曲「蒼い鳥」(from THE IDOLM@STER)

日本の動画サイト「ニコニコ動画」に匿名で投稿した演奏動画をきっかけにデビューを果たしたピアニスト「ピアニート公爵」。視聴者の度肝を抜く卓越した演奏技術と不明な経歴との隔たりから、視聴者から「高等遊民」と呼ばれ、投稿動画に「俺(ニート)」と書いたことから、「ピアニート公爵」という愛称で呼ばれるようになりました。後に、「ピアニート公爵」はピアニストの森下唯の生き別れの兄弟だったという事実(?)も明るみになります(真相はコチラをご覧ください)。動画投稿をきっかけにCDデビュー、現在では数々のコンサートやスタジオ録音に呼ばれる人気ピアニストとなります。

そんなピアニート公爵がニコニコ動画に初めて投稿した演奏が「蒼い鳥」(THE IDOLM@STER)のピアノ編曲です。本作は、人気ゲーム/アニメのアイドルマスターに登場する楽曲で、作曲:椎名豪氏(アニメ「鬼滅の刃」音楽 etc.)、M@STER VERSION編曲:塩入俊哉氏(稲垣潤一ツアー/音楽監督 etc.)という超豪華メンバーによるもの。ピアニート公爵は、よりクラシカルな雰囲気を持ったM@STER VERSIONを、ピアノ1台で表現するという試みをしています。

2021年1月現在、再生回数は1,128,819回に上り、クラシック音楽のファンに留まらず様々な音楽ファンの間で伝説として語り継がれる名編曲を、2020年2月1日、弊社より刊行いたします。


初回限定特典といたしまして、こちらの楽譜をご予約をいただいたお客様には、ピアニート公爵のサイン付きの楽譜をお送りいたします。限定30部です。お見逃しなく。本楽譜の表紙は、新進の漫画家・うたたね游(Twitter:@remon__pie )さんによるイラストです。

サイン付き楽譜(限定50部!)*当初は30部でしたが今回限り20部追加いたしました。
 https://muse-press.com/item/mp00404le/ ‎

サイン無し楽譜(2月1日より順次発送予定です)
 https://muse-press.com/item/mp00404/ ‎

序文:ピアニート公爵
価格:2000円(税抜)
ISBN:978-4-909668-69-1


ピアニート公爵(森下唯)
日本のピアニスト・作編曲家。ソロでのリサイタルのほか、オーケストラとの共演、リート伴奏、室内楽などの分野で活動し、スタジオ・ミュージシャンとしても多くのレコーディングに参加。演奏以外にも、映像作品への楽曲提供や文筆など幅広く手がけている。

「ピアニート公爵」としては、2007年のニコニコ動画への投稿で一躍注目の的となった(「ピアニート公爵」は動画投稿時にニートを自称していたことから視聴者に名付けられたもの)。2011年、ドワンゴ・ミュージック・エンタテインメントよりアルバム『シンギュラリティ~特異点~』をリリース。その後、日本、台湾、シンガポール等で演奏活動を行っている。近年では『GRANBLUE FANTASY PIANO COLLECTIONS』、『Piano Collections FINAL FANTASY XV』等で演奏を担当。2018年、『コードギアス 反逆のルルーシュ ピアノソロコレクション』では演奏とともに編曲も手がけ、楽譜集も出版された。

本名の森下唯名義では作曲家アルカンの紹介に力を入れており、アルカン生誕200年となる2013年から継続的にオール・アルカン・リサイタルを行う。2015年よりアルカン作品を集めたCD「アルカン ピアノ・コレクション」(ALM RECORDS)シリーズをリリース、『レコード芸術』誌をはじめ各所で高く評価されている。東京藝術大学卒業、同大学大学院修了。2004年、第2回東京音楽コンクール第2位。調布国際音楽祭アソシエイト・プロデューサー。2015年より東京藝術大学非常勤講師(指揮科演奏研究員)。

2020年12月の新刊情報(内藤晃による編曲作品)

12月の新刊情報です。発送は、12月16日頃より順次行います。

ピアニスト、指揮者、作編曲家として活躍する内藤晃によるピアノのための編曲作品が初出版となります。1点目はヨハン・セバスティアン・バッハが作曲した「G線上のアリア」のピアノ独奏版。内藤晃は、本作品の決定的なピアノ独奏版がないと考え、原曲の響きを忠実に編曲しました。指揮者としても活動する彼だからこそできた、オーケストラ作品をピアノに編曲する際の細かな配慮が散りばめられています。

J. S. バッハ/内藤晃:G線上のアリア(ピアノ独奏のための編曲)
税込1250円|菊倍|8頁
序文:内藤晃


2点目は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲した大ミサ ハ短調 K.427 (417a)より「主は聖霊によりて宿り」のピアノ独奏版。このミサ曲は、結局は完成されませんでしたが、バッハと彷彿とさせるポリフォニックなテクスチュアをもつ意欲的な音楽で、当時のモーツァルトのバロックへの傾倒ぶりが滲み出ています。内藤晃は、2020年9月、友人の結婚披露宴で演奏するために本作品をピアノ独奏用に編曲しました。

モーツァルト/内藤晃:「主は聖霊によりて宿り」 大ミサ曲K.427(ピアノ独奏のための編曲)
税込1500円|菊倍|12頁
序文:内藤晃


内藤 晃

 ピアニスト、指揮者。東京外国語大学ドイツ語専攻卒。桐朋学園大学、ヤルヴィ・アカデミー(エストニア)などで指揮の研鑽を積む。ピアノ・指揮・文筆の多分野で活躍。訳書にA.ゲレリヒ著「師としてのリスト」(近刊、音楽之友社)、校訂楽譜に「ジョン・アイアランド ピアノ曲集」(カワイ出版)「ヤナーチェク ピアノ作品集」(ヤマハミュージックメディア)などがあるほか、音楽雑誌やCDライナーノートへの執筆も多い。その知的で美しい音楽づくりには、マリンバ吉川雅夫氏や作曲家春畑セロリ氏など、一流ソリストや作曲家から厚い信頼が寄せられ、彼らのCDでもピアノを担当している。自身のCDに「Primavera」(レコード芸術特選盤)「言葉のない歌曲」(同準特選盤)などがあるほか、2020年よりsonoritéレーベルを主宰し、レコーディング・ディレクターとしてCDのプロデュースも行っている。主宰ユニット「おんがくしつトリオ」では、教育楽器によるエキサイティングなアレンジが人気を博し、全国各地に招かれている。(公式ウェブサイト

【楽譜予約受付開始】ショパンの練習曲による「幻のエチュード」(レオポルド・ゴドフスキー)

本日はレオポルド・ゴドフスキーの命日です。

ピアノの仏陀(The Buddha of the Piano)とまで称されたゴドフスキーはピアニストとしても世界中で大活躍、作曲家としては主にピアノの作品を残しています。その中でも特筆される「ショパンの練習曲によるエチュード」ですが、この曲集について彼は「未来のピアニストに向けて書いている」と語ったという逸話も残っています。演奏するには相当なテクニックを要します。挑戦する者も多く現れましたが作品がもつ本来の持ち味を発揮できず、また「ショパンのエチュードをより難しく編曲しただけ」という誤解がなされ、故に長い間正当な評価を得ることができませんでした。

近年では、カルロ・グランテ、フランチェスコ・リベッタ、マルク=アンドレ・アムラン、ヴァディム・ホロデンコといった名ピアニストが取り上げ、録音も行っており、この曲集を評価する声が一層強くなっています。

西村英士によると、ある時、ゴドフスキーがウィーンの自宅を離れ、夏季休暇でベルギーに滞在している際に第一次世界大戦が勃発してしまいました。ゴドフスキーは自宅に戻ることができなくなり、やむなくイギリス経由でアメリカへ避難。持っていたのは旅行用の荷物だけで、4台のピアノ、膨大な楽譜コレクション、執筆中作品の自筆譜などはすべて自宅に置き去りとなりました。そして、ゴドフスキーの秘書を務めたJohn George Hindererは

第1次世界大戦勃発時、ウィーンのゴドフスキー家に10曲の「ショパンのエチュードによる練習曲」の楽譜が残されていた。

と記しています。大変嘆かわしいことに、現在もそれらの自筆譜の所在地はわかっていません。ゴドフスキーファンにとって肩を落とすような出来事ではありますが、そんな中、今回お届けする新刊は「ショパンのエチュードによる練習曲」から紛失していたと考えられていた幻の2作品です!

行方不明と考えられていたNo.30Aの自筆譜(未完成)

2作品とも未完成ではありますが、ゴドフスキーがどのように作品を展開していくつもりだったのか、その後の流れは十分に妄想を膨らませることも可能です。No.30AはショパンのOp.25-3を行進曲風に編曲(僅か12小節のみ…)、No.50はOp.10-2とOp.25-4とOp.10-11(有名な「木枯らし」)をなんと同時に鳴らすという驚異的なことをやってのけています。ちなみにNo.50Aは「木枯らし」で例えると再現部まで完成しています。補筆完成も夢ではないかもしれません。また、西村英士による充実した解説も必読です。

今回、これらの自筆譜の複写を快く提供してくださったピアニストのマルク=アンドレ・アムランも「今回のこれらの作品の出版はピアノ愛好家にとって大変喜ばしい出来事になるでしょう」と語っています。

行方不明と考えられていたNo.50の自筆譜(未完成)

2020年11月21日から予約受付を開始します。なお、予約限定付録としてNo.44A(未完成)の楽譜が付属します!

ご予約はこちらのページから可能です。

レオポルド・ゴドフスキー:ショパンのエチュードによる練習曲(未完成)
No. 30A & No. 50
解説:西村英士
価格:2000円(税込)
ISMN:979-0-707804-05-6


西村英士
 東京大学、京都大学大学院卒業(医学博士)。東大ピアノの会OB。ピアノを田中智子、高須久子の両氏に師事。安田正昭氏、高須博氏の指導も受ける。国際アマチュアピアノコンクール2016 A部門第1位、同コンクール2015 B部門第1位、第18回大阪国際音楽コンクール ピアノ・アウトスタンディング・アマチュア部門第1位、第36回PTNAピアノコンペティション グランミューズ部門B2カテゴリー第1位、第1回東京ピアノコンクール アマチュア部門第1位。1994年、メシアン「みどり児イエスに注ぐ20のまなざし」全曲演奏。日本初演作品はメシアン「前奏曲(遺作)」「シャロットの妖姫」「視奏講義用小品」、ソラブジ「3つのパステーシュ」(KSS 31-1, 3)、ハーバーマン「ソラブジ様式で『月の光に』」、アムラン「全ての短調による12の練習曲第3番『パガニーニ=リストによる』」、グリエール/ルーウェンサール「バレエ『赤いけしの花』より『ロシア水夫の踊り』」、レイトン「5つの練習曲」(Op. 22-1, 3, 5)など多岐にわたる。ゴドフスキー「ショパンのエチュードによる練習曲集」の楽譜で解説をアムランと共同執筆(ヤマハミュージックメディアより出版)。ゴドフスキー「ジャワ組曲」、E. シュルホフ作品集の楽譜でも校訂、解説執筆を手がけたほか、ゴドフスキーに関する雑誌記事やCD解説を多数執筆している。2017年、初CD「コンポーザー=ピアニストを称えて」をリリースした。
http://www.nanasakov.com/1019.html

ショータの楽譜探訪記(1)

こんにちは、突然ではありますが、本日から「ショータの楽譜探訪記」というお題でこれまでに蒐集してきた楽譜コレクションについて月1回の目安で連載を行っていきます。

軽く自己紹介を。私、小学5年生を迎えた頃、ベートーヴェンの「月光」を自宅の自動演奏ピアノで聴いて衝撃を受け、ピアノの学習を本格的に始めたわけですが、その頃から楽譜には異常な関心を抱いていました。この関心がどこから湧いてきたのか…今考えても理由はよく分かりません。まず買い集めたのは春秋社刊行の世界音楽全集(井口基成・校訂)でした。楽譜蒐集の第一歩が世界音楽全集だったのは、当時習っていたピアノの先生宅のレッスン室壁一面に世界音楽全集が並んでいたからでしょう。両親と近所の楽器店に寄る度に楽譜をせがんでいたのが懐かしいです。そこから主にネット上でアマゾン、国内輸入楽譜屋、海外楽譜屋やオークション、ヨーロッパ留学中は海外の図書館まで行動範囲を広げ今に至るわけです。

第1弾は今月手元に届いた楽譜について話をしてみようと思います。

先々月の真夜中、ネットサーフィンをしていたところ、イギリスのオークションサイトで驚愕のロットを見つけました。それは、去年亡くなったアメリカの大ソプラノ歌手であるジェシー・ノーマンの遺品、楽譜80冊でした。(詳細はコチラから)

生前、ジェシー・ノーマンの音楽コレクション 約29000点(!)はアメリカ議会図書館に寄贈されたというニュース記事を見かけたことがあり、もう市場に出回ることはないと思い込んでいました。

今回、オークションに出品された楽譜の数多くはノーマン本人による書き込みがあり、彼女の演奏解釈を読み解く上で一級の資料となり得ます。中には、フランシス・プーランクのオペラ「人間の声」の楽譜も入っていました。この作品は、2004年、ノーマンによる日本公演で話題となっています。幸運なことに、当時の公演模様はコチラで見ることができます。

恐らく、この機会を逃したら一生出会うことはないでしょう。楽譜との出会いは常に一期一会です。悩みに悩んでオークションに参加することにしました。結果、無事に落札することができたわけですが、諸手続きにそれなりの日数を要し、1か月半ほど経って遂に手元に届きました。

厳重な梱包を解くと、そこにはA3ほどの大きさの紙製の箱が8個が入っていました。今回受け取った楽譜1冊1冊を丁寧に確認をしていくと約2/3の楽譜に、ノーマンによる速書きのサイン “JN”がありました。そして、約1/4にノーマンによる演奏に関する膨大な書き込みがありました。ちなみに、前知識が無ければ、サイン”JN”がノーマンによるものだと認識するのは困難なのではないでしょうか。なお、アルノルト・シェーンベルクのオペラ「期待」についてはフルスコア、ピアノスコア、ポケットスコアなど合わせて10冊ほどありました。彼女が得意としていたレパートリーなだけあります。

他には、ピアニストのロバート・ウィルソンと共演した際に使用したフランツ・シューベルトの歌曲集「冬の旅」の楽譜がありました。例えば、その歌曲集の「回想」では”turn head to begin song(歌い始めるために振り返って)”など、それぞれの歌曲の冒頭に舞台上の動きに関する注釈が見受けられます。また、ロベルト・シューマンの「女の愛と生涯」では、ドイツ語歌詞、一単語ずつを丁寧に翻訳(逐語訳)した跡もしっかりと残っています。他にはEMIから録音が出ているリヒャルト・ワーグナーの「ヴェーゼントンク歌曲集」(ピアノ伴奏版)の書き込み入り楽譜もありました。その楽譜にはブレスの個所、テンポ感、フレーズ、協調するべき子音などが鉛筆で書かれています。音楽に対して一切の妥協を許さなかった様子がこれらの楽譜から伝わってきます。

今回購入した楽譜は状態が悪いものも多いために近いうちにスキャンしてデータ化を急ごうと思います。これからの連載の中でそれらの楽譜を定期的に紹介をしていくつもりです。最後までお読みくださりありがとうございます。

最後に…
私はミューズ・プレスの創業当時から代表社員として働いていましたが、私事で2019年8月末に一線を退いていました。ですが、先月から休日のみの稼働のもと代表社員としてミューズ・プレスの出版業務に携わっていくことになりました。上質な楽譜が皆様にお届けできるように努力して参ります。

平尾貴四男【出版・第1弾】

フランスで音楽を学び、日本帰国後は作曲家として大活躍をしていた平尾貴四男。46歳でこの世を去ってしまいましたが、管弦楽曲の代表作「砧」(きぬた)をはじめとして数々の名曲を残しています。今回、ミューズ・プレスは、存在が知られていたものの長年に渡って行方不明だった「ピアノのためのソナタ」の改訂版、平尾貴四男の著書「みんなでやろう-私たちの作曲」にひっそりと収録されていた「ピアノのためのソナチネ」を出版します。「ピアノのためのソナタ」は、2008年に自筆譜が再発見され近年になってピアニストの斎藤龍氏によって半世紀ぶりに蘇演。「ピアノのためのソナチネ」は平尾妙子氏の遺品の中に自筆譜が眠っていました。平尾貴四男のピアノ作品は、「ピアノのためのソナタ」しか残っていないと考えられていたために、「ピアノのためのソナチネ」の再発見は大変驚くべきニュースとなりました。しかし、この2つのピアノ作品の他に「夜曲」と呼ばれるピアノ作品の存在が囁かれています。ミューズ・プレスでは現在この作品について調査中です。

・ピアノのためのソナチネ (1951)
https://muse-press.com/item/mp02301/?lang=ja

・ピアノのためのソナタ – 改訂版 (1951)
https://muse-press.com/item/mp02302/?lang=ja

・荒城の月による変奏曲
https://muse-press.com/item/mp02303/?lang=ja