文:高橋智子
3 最期の楽曲 「For Samuel Beckett」(1987)と「Piano, Violin, Viola, Cello」(1987)
「Words and Music」の後、フェルドマンはもう1つ、ベケットにまつわる曲を書いた。それが1987年のホランド・フェスティヴァルから委嘱された「For Samuel Beckett」である。1987年3月10日、「Words and Music」ラジオ放送用のレコーディング中に行われたインタヴューの最後で、フェルドマンは「ホランド・フェスティヴァルのためものを仕上げているところです。 I’m finishing something up for the Holland Festival」[1]と発言しており、2つの曲がほとんど間を置かずに作曲されたことがわかる。もしかしたら、フェルドマンが2つの曲を同時進行で作曲していた可能性もある。だが、この曲にベケットの名前を付した理由を彼ははっきり語っていない。1つ前のセクションで解説した「Words and Music」がフェルドマンにとって音楽と表現、言葉、情緒との関係を再考するきっかけとなり、フェルドマン最晩年の新境地を切り拓いたことを考えると、「For Samuel Beckett」作曲中の彼の頭の中には常にベケットの存在があったのかもしれない。編成は23人の奏者のための室内アンサンブル。演奏時間は約55分。「For Samuel Beckett」はフェルドマンが生涯のうちで書いた最後から2番目の曲だ。
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